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転職エージェントが抱える報酬の問題

ここでは「報酬」という観点から、
転職エージェントが抱える課題について説明していきます。

転職エージェントは、紹介した人材の採用が決定した段階で
企業から採用成果報酬型のコンサルティング・フィーをもらうことで、
求職者には全てのサービスを無料で提供するというビジネスモデルを実現させています。

そして多くの場合、この採用コンサルティング・フィーは、
紹介した求職者に提示される年収に応じて、
年収の2割~3割程度を基準として算出されています。

仮に、採用決定者に対する提示年収が400万円、
採用コンサルティング・フィーが年収の35%だとすると、

400万円×35%=140万円

が、企業から転職エージェントへと支払われます。

提示年収にかかってくるパーセンテージを「料率」と呼ぶことがありますが、
この「料率」に基づいてコンサルティング・フィーが決定するという
転職エージェントの報酬体系が、時として課題となることがあります。

年収に一定料率を掛けた金額をコンサルティング・フィーとして算出する場合、
当たり前ですが年収が高ければ高いほど、
コンサルティング・フィーは高くなります。

分かりやすく例を出すならば、
仮に料率が35%だったとすると、

  • 提示年収が600万円の場合:
  • 600万円×35%=210万円
  • 提示年収が300万円の場合:
  • 300万円×35%=105万円

このようになります。

提示年収が300万円違えば、
コンサルティング・フィーは105万円も変わってくるわけです。

しかしながら、転職エージェントにしてみれば、

提示される年収が300万円の人をマッチングするためにかかるコストと、
提示される年収が600万円の人をマッチングするコストには、
そこまで大きな違いはありません。

もちろん、年収が高いエグゼクティブ層ほど
会員獲得にかかる費用が高くなるという傾向はないわけではありませんが、
それでも価値にして105万円の差が出るほどのコストの違いはありません。

つまり、転職エージェントがマッチングを実現し、
採用が実現するまでにかけるコストや工数と、
実際に企業から支払われる報酬額の間には、
大きな相関関係は見られないのです。

そうなると、当然ながら転職エージェントだって民間企業ですから、
同じ工数で販売ができるならより高所得層のマッチングに力を入れたほうが、
利益率は高まる、と考えるのが当然です。

ローエンドな求職者よりもハイエンドな求職者に注力したほうが、
ビジネスとしては利益を確保しやすいのです。

しかし、ここが転職エージェントの難しいところです。

個人にしてみれば、転職するということの重みと、
年収が高いか低いかということはは全く関係ありません。

ただ年収が低いというだけで提供されるサービスの質が落されてしまったり、
サービス提供を断られてしまったら、
転職エージェントを活用する意味がなくなってしまいますし、
その方は一向に低年収のスパイラルから
抜け出すことができないかもしれません。

こうした市場原理に基づいた転職エージェントの行動インセンティブを抑制するために、
職業紹介事業を営む事業者は、求職者から職業の紹介を依頼された場合、
原則として求職の申込みを断ってはならない(職業安定法第5条の6)、
という法律が定められています。

実際には登録はできたとしても
「現在はご紹介できる求人がありません」という形で
すぐにサービスを利用することができないケースはありますが、
原理原則的には、転職エージェントは職業の斡旋を依頼してきた
全ての個人を受け入れる義務を負っているのです。

市場原理に基づいて考えればこれほど非効率な規制はないと思われるかもしれませんが、
これは転職エージェントが「雇用問題」という大変重要な社会問題と
密接に関わる領域でビジネスを展開している以上、
倫理的に持っていなければいけない使命とも言えるでしょう。

そのため、基本的にどの転職エージェントも
求職者の年収レンジによってサービスに差をつけるといったことはしていませんし、
転職を希望する方はあまねく受け入れる体制を整えています。

そうはいっても、転職エージェントはハローワークとは違い
れっきとした営利事業ですから、適正な利益を担保しなければ、
ビジネスにはなりません。

ハイエンド層のマッチングのほうが利益を出しやすいという構造は、
いくら法律的な抑制がかかっていたとしても、
実際のビジネスの現場では力学となってしまう可能性は十分にあります。

もちろん、転職エージェントのカウンセラー一人一人にとってみれば、
年収に応じてサービスの質を変えるなどといったことはまずしないでしょうし、

転職エージェントによっては、
そのような倫理的に問題がある行動を仕組みとしてなくすために、
企業担当側にも求職者担当側にも
数値目標を「売上金額」ではなく「入社決定人数」として課すことで、
ハイエンド層へのマッチングに注力するインセンティブを制度的に
排除している会社も存在しています。

転職エージェントはよく利益率が高い業界と言われますが、
適正な利益を確保するだけではなく、
「雇用を守る」という大きな社会的意義が求められる事業でもあるのです。

経営基盤が安定している大手の転職エージェントであれば
このような部分に対する配慮や取り組みが十分に行き届いているかと思いますが、
短期的な利益を追い求め続けなければいけない中小転職エージェントの場合となると、
もしかしたらこの力学に意思決定が影響されてしまうこともあるかもしれません。