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転職エージェントが抱えるビジネスモデルの問題

ここでは「ビジネスモデル」という観点から、
転職エージェントが抱える課題について説明していきます。

転職エージェントが持つ2つの顔と、
その2つの顔が生み出す難しさについて、
ぜひご理解頂ければと思います。

転職エージェントは、大きく下記の2つの役割を持っています。

  • 企業の人材採用を支援する
  • 個人の転職を支援する

企業の人材採用を支援するという仕事と、
個人の転職を支援するという仕事は、
向いている方向が全く違うがために、しばしば矛盾を抱えてしまうことがあります。

少しでも安く優秀な人材を採用したいという企業と、
少しでも高い給料で良い企業に転職したいという個人。

そもそもの企業のニーズと個人のニーズは
ぶつかり合っている側面もあるわけです。

そうなると、転職エージェントの仕事は必然的に2面性を帯びてきます。

企業の採用コンサルティングをする際には、
企業の視点に立ってときには候補者を絞り込むという仕事をしなければいけません。

個人の転職支援に向き合う際には、
個人の視点に立ってときには可能性が薄いと分かっていても
チャレンジ応募をさせてあげたくなるケースが出てきます。

優秀な人材に絞り込んで紹介してほしいという企業のニーズと、
少しでも転職の可能性を広げたいという個人のニーズをマッチングさせることは、
そう簡単なことではないのです。

しかし、マッチングこそが転職エージェントの付加価値でもありますから、
転職エージェントが介在しなければ実現しなかったような企業と個人のマッチングを
成功させるのが、転職エージェントの仕事だと言うこともできます。

企業の視点から言うならば
「こんな人、採れると思わなかった!」というほど優秀な人材の採用に成功したり、
個人の視点から言うならば、
「こんな企業に入れるとは思わなかった!」というほど希望の企業への転職を実現する、
といったイメージでしょうか。

このマッチング、まだ企業と求職者を一人の人間が
担当しているのであれば、話はそこまで難しくありません。

一般的に、中小規模の転職エージェントはほとんどが
企業担当と求職者担当を分けずに、一人の担当が双方の対応をしています。

担当者が自分自身の目で企業も個人もしっかりと見ていれば、
必然的にマッチング精度は上がっていきますから、
「もしかしたら採用するかも」「もしかしたら採用されるかも」
といったマッチング上のバッファ(ずれ)は少なくなります。

このマッチング上のバッファが少なければ少ないほど、
企業と個人の期待値のずれは少なくなりますから、
企業が自身の採用力では確保できないような人材からの応募を期待したり、
その逆に個人が自身の能力では通過できないような
企業からの合格通知を期待することは少なくなるでしょう。

しかし、ここが転職エージェントというビジネスのビジネスモデルが抱える、
一番難しいところでもあります。

転職エージェントとして企業の採用支援実績と個人の転職支援実績を
積み重ねていけばいくほど、当然ながら組織は巨大化していきます。

そして、転職エージェントビジネスが上手くいけばいくほど、
次第に企業と個人の両方を一人の転職エージェントが担当するという
サービスモデルは非効率となっていくのです。

企業の採用コンサルティングにも専門的なスキルが必要ですし、
個人の転職カウンセリングにも専門的なスキルが必要です。

そのため、転職エージェントは大規模になればなるほど、
いずれ「分業制」という大きな決断を迫られることになります。

転職エージェント最大手のリクルートエージェント社や
インテリジェンス社などは、
当然ながらこの分業制を敷いています。

つまり、企業を担当する人間と個人を担当する人間が、
社内で分かれているのです。

このような組織体系になると、必然的に発生しやすくなる問題があります。
それは、マッチング上の「バッファ(ずれ)」が膨らんでいく、ということです。

企業担当は個人の担当を直接見ているわけではありませんから、
本当は通過可能性が高いかもしれない人材を企業に推薦することが出来なかったり、
その逆に通過可能性が低い人材を紹介してしまう可能性が高まります。

その逆に、個人担当は企業を直接見ているわけではありませんから、
本来は通過するはずがない求人を個人に紹介してしまったり、
その逆に本人の希望に全く沿わない求人を紹介してしまうことも増えます。

このような分業制の転職エージェントにとっては、
企業担当者と求職者担当者とのコミュニケーションがマッチングの命綱となります。

しかし、いくら企業担当と求職者担当が綿密にコミュニケーションを重ねたとしても、
やはり企業と求職者の双方を一人が担当している状況に比べれば、
マッチングの精度は高まりづらくなります。

更に、分業制を長く続けていると、下記のような事態も起こってきます。

企業担当は企業目線で人選をするため、
個人の転職可能性よりも選考通過確度だけを基準とした選考をするようになります。

求職者担当は求職者目線で求人を紹介するため、
「チャレンジ」などの名目で
企業の採用ニーズとそぐわない人材を紹介しようとするようになります。

このようになってくると、
転職エージェントとしての価値はますます低減していきます。

少しでも採用を効率化し、優秀な人材をリスクなく低コストで採用するために
転職エージェントを活用している企業の満足度も下がりますし、

少しでも転職の可能性を広げ、可能な限りの選択肢の中から職探しをしたい、
という個人の希望も叶えることができなくなります。

何より、企業担当は企業の代弁者として、求職者担当は求職者の代弁者として、
互いに手を取り合うどころか、ときにはぶつかり合うことまで出てきてしまいます。

本来は企業と個人をマッチングし、双方の満足を目指すはずの転職エージェントが、
ただ立場を2つに分けたというだけで本来の目的や機能を忘れて、
内部分裂したかのようになってしまうことがあるのです。

こうして、大手の転職エージェントは中小の転職エージェントと比較して
マッチングの精度が悪い、という状態が生まれてしまうことがあります。

大手の転職エージェントは中小の転職エージェントと比較すると
登録者数も求人数も豊富なため、結果としてのマッチング率はそこまで低くないものの、
サービスの利用者としては精度が低い候補者(求人)の紹介が多い、
という印象を与えてしまっていることがあるのです。

そして、この問題はとても構造的なもので、たとえ今は中小規模のために
企業担当と求職者担当が分業制となっていない転職エージェントでも、
いずれ規模が拡大していけば必ずや突き当たる壁となります。

このような転職エージェントならではのビジネスモデルを理解していると、
例えば求人の量を担保する上では大手の転職エージェントを使用しつつ、
求人の質を担保する上では中小の転職エージェントを使用する、といった
両者の得意分野を活かした賢い使い分け方なども見えてきます。

転職エージェントというビジネスモデルだからこそ生まれるこの課題を
理解しておくだけでも、転職エージェントに対する見方は
随分と変わってくるはずです。ぜひ参考にしてみてください。